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040 意志決定を振り返るときには「感情」もメモしておく

●意志決定における感情の役割

神経学者のアントニオ・ダマシオは、脳に損傷を負った患者の研究を通じて、意志決定における感情の役割を考察しています。ダマシオによれば、われわれは経験(どんな状況で、どんな選択をし、どんな結果になったか)を、その結果がもたらした感情と関連づけて分類・蓄積します。そうした関連づけがあるので、

「特定の分類の特徴に一致するような状況がわれわれの経験の中にふたたびあらわれると、われわれは迅速かつ自動的に、適切な情動を展開する」と述べています(1)

「迅速」かつ「自動的に」、「適切な」情動を展開するという部分を少し詳しく解説します。そもそも情動を展開するというのは、身体または脳からの情動信号が編集され、特定の「感情」としてわれわれの意識に届くことを意味しています。こういった情動展開プロセスは生存のために生物が発達させたものなので、つねに「迅速」に起動されます。このプロセスは、われわれが感知できるレベル(つまり意識)の下で「自動的に」行われます。

そうやって生起した情動が「適切」かどうかは、見方によります。

過去の類似の経験から将来の帰結を予測し、目を向けるべき選択に集中させてくれるという意味では「適切」に働いてくれます。たとえば、あなたが部下の評価をしなければならないとします。忙しい時期だったので評価の数字だけ書き込んで提出しようとしたそのとき、ちょっとイヤな感じがよぎったとしましょう。それは「過去、こんな状況でいいかげんな評価をして、観察が足りないと人事から厳しい注意を受けた(経験)。恥ずかしかったが、腹も立った(感情)」といった情報が経験データベースに蓄積されていたせいかもしれません。その場合、「このまま数字だけ提出すると、また腹立たしい結末になるかも」という警告が情動として生起し、それが「イヤな感じ」という感情として意識に届いたということです。

しかし、つねにそれに従うべきかどうかという意味では、かならずしも「適切」とは限りません。経験データベースが「どんな状況でどんな選択をしてどんな結果になり、それをどう感じたか」という情報の蓄積以上のものではないとしたら、そこから客観的に正しい判断を引き出すことはむしろ難しいでしょう。とりわけビジネスにおける意志決定では、自分がどう感じるかよりは客観的に見てどれが妥当かという観点で決断しなければ、合意形成は難しいと思います。

●意志決定を振り返るときには「感情」もメモしておく

しかし、直感ありきはよくないにしても、客観的に見てなお妥当な選択肢が見つからない(あるいは同じくらい妥当な選択肢が複数ある)場合には、マネジャーはどれかを選択せざるを得ません。もちろん、選択しないという選択肢を含めて。

そのとき頼りにできるのは、やはり自分の情動・感情システムになってきます。ダマシオはこう書いています(1)

「情動と感情には、将来を見るための水晶玉があるわけではない。しかし適切な文脈で展開されると、それらは近い将来や遠い将来における、ことの善し悪しを教える前触れとなる。」

このシステムを強化する、つまり直感を育てるにはどうすればよいのでしょうか。すでに述べたメカニズムからすると、それは「経験と、それに伴う感情をしっかり結びつける」ことではないかと考えられます。

失敗したら大いに落胆する。成功したら大いに喜ぶ。経験は感情によってわれわれのデータベースに刻まれ、同時にダマシオの言う「ことの善し悪し」の基準を育てていくように思います。

なぜならば、何をもって成功・失敗とするかという基準がない限り、われわれは喜ぶことも悲しむこともできないからです。たとえば、同じ失注という失敗でも、悔しがるべき失注と、しかたないとあきらめるべき失注があるでしょう。その境界はマネジャーによって異なると思いますが、なんにせよ、われわれは感情を表すことで一つの評価を下すわけです。それについてどう感じたかをあいまいにしたままやり過ごしてしまうと、いくら経験を重ねても、それは賢慮につながらないのではないでしょうか。

このデータベースづくりは、脳にだけ任せておく必要はありません。意志決定を振り返るときには、通常はまず結果の当たり外れを、次いで意志決定プロセスの良し悪しを評価すると思います。(本来はプロセスが先だとは思いますが)。ここに「どう感じたか」を加えておいてはどうでしょうか。たとえば

1.どんな状況だったか
2.どんな選択肢があり、どう考えてどんな選択をしたか
3.どんな結果になったか
4.選択と結果をどう評価するか

こんな感じでメモをしているとしたら、そこに

5.選択と結果についてどう感じたか

という項目を加えるということです。これによって当時の意志決定を反芻しやすくなりますから、直感システムの強化につながるのではないでしょうか。


(1) アントニオ・R・ダマシオ 『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』(ダイヤモンド社、2005年)

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