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059 感情と行動のあいだのワンクッション

今回は「意志決定」と呼ぶにはミクロかもしれませんが、言動に注意を払う必要のあるマネジャーのみなさんには参考にしていただける話だと思います。

棋士の羽生善治さんの『結果を出し続けるために』という本のなかに「起こった感情には、ワンクッション変換を入れて対処する」という話があります。いつも冷静にみえる羽生さんですが、対局のなかでも感情の浮き沈みを感じておられるとのこと。その感情への対処について、次のように語られています(1)

こうした揺れ動く自分の感情を、いかにコントロールするか。これは、起こった感情を、ストレートにそのままぶつけてもうまくいきません。

たとえば、「怒っているから、攻めの手を指そう」といったようにです。そうではなく、自分が怒ったことに対しては、「怒り」を「闘志」に変えるといったように、ワンクッション、違う変数を入れて変換してから、その状況に対処するのです。

起こった感情を、直接的にすぐ表に出さずに変換し、その状況に合わせて気持ちをプラスに切り替えてみるのです。

「怒り」感情に振り回されず、ワンクッション入れて「闘志」に変換する。これぞ感情のマネジメントですね。

強い感情のパルスは心理学的には「情動」(emotion)と呼ばれます。イェール大学のピーター・サロベイ教授とニューハンプシャー大学のジョン・メイヤー教授が提唱した"Emotional Intelligence Theory"(以下EQ理論)の枠組みを借りて、羽生さんがどのように情動をマネジメントしているかを探ってみましょう。EQ理論では、感情に関する能力を4つのブランチに分けて定義しています(2)

  1. 【感情の識別】 感情に気づく・感情を表す
  2. 【感情の利用】 感情で思考を促す・感情と課題を適合させる
  3. 【感情の理解】 感情の意味を理解する・起こりうる事態について分析する
  4. 【感情の調整・管理】 感情にこころを開いた状態を保つ・感情と思考を統合する

感情に対処するためには、そのときどきの自分の感情に気づかなければなりません(感情の識別)。羽生さんは対局中の自分の感情の細かい動き(揺れ)を知覚しています。自分の感情くらい自分で分かるよと思われるかもしれません。しかし感情と行動のあいだにワンクッション変換を入れるためには、高速に識別できる必要があります。「部下の不手際にカッとして、つい言い過ぎた……」では、たとえ識別ができていても遅いということです。わたしも、特に自分の子どもなど近しい存在に対して、なかなかワンクッションを入れられません。そこで独りの時間をつくって自分の感情を実況中継する瞑想を行っています。

もしカッとくるような強い情動を感じたとしたら、羽生さんはおそらくそれをやり過ごして(感情の利用)から対処を考えることでしょう。『起こった感情を、ストレートにそのままぶつけてもうまくいかない』ことを理解している(感情の理解)羽生さんは、『状況に合わせて気持ちをプラスに切り替えてみる』という選択をしました(感情の調整・管理)。「プラスに切り替える」とは、具体的には『「怒り」を「闘志」に変える』ことです。これは頭でそう考えられるだけでなく、実際にそういう感情の状態に自分を持っていけなければなりません(感情の利用)。

こうして細かく見ていくと、羽生さんが感情の諸能力を使いこなしていることが分かります。引用部分で触れられていたのは自分の感情に関することだけですが、将棋は対人競技ですから、羽生さんは相手の感情についても識別し、理解したうえで、必要な感情を作り出す(利用)能力を発揮している(これら一連のプロセスが感情の調整・管理)ことでしょう。

この4ブランチを測定する検査も、伸ばすトレーニングも存在します。しかしまずは「○ッときたらワンクッション変換」と覚えてみてはどうでしょうか。○には「ム」「カ」「ドキ」など、自分がうまく対処できるようになりたい感情語を入れてみてください。感情→対処という反射でなく、感情を識別した時点で一拍置くことができれば、最善の対処を選択するために考える時間が作れます。

末筆ながら、2010年のご愛読に感謝いたします。


(1) 羽生善治 『結果を出し続けるために (ツキ、プレッシャー、ミスを味方にする法則)』(日本実業出版社、2010年)

(2) デイビッド・R・カルーソ、ピーター・サロベイ 『EQマネージャー』(東洋経済新報社、2004年)

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