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106 おだやかな言葉、やさしい眼差し、おおらかな笑顔

●おだやかな言葉、やさしい眼差し、おおらかな笑顔

仕事でお世話になっているAさんが今の勤務先を離れるらしいというニュースを聞いた数日後、Aさんの同僚の方から送辞をリクエストされました。大勢から短い送辞を集めてスライドショーに仕立て、送別会で流したいとのこと。

Aさんは、直属の上司から「天使」と呼ばれるほどのお人柄です。天使の笑顔に助けていただいた思い出を書いていてはきりがないので、笑顔にちなんだ引用句を探して訳し、送辞に代えることにしました。

おだやかな言葉、やさしい眼差し、おおらかな笑顔。
それらがあれば、奇跡だって起こせる。
-- William Hazlitt

おだやかな言葉とやさしい眼差しとおおらかな笑顔を備えた人は、いわば肯定的な関心とでもいうべき雰囲気を発しています。肯定的な関心こそ誰もが欲しがるものであり、それを与えられる人が天使と呼ばれるのでしょう。

●天使になる(肯定的な関心を向け、人間関係によい影響をもたらす)

もちろん、いつもいつも天使でいるわけにもいかないでしょう。しかしせっかく天使になれる機会があるのにそうしない人も、意外に多いように思います。たとえば……

ある企業で終日講師を務めたときのこと。場の雰囲気はよかったのですが、学びの時間を楽しんでくれているのかどうか、表情やしぐさからはなかなか読み取れません。休憩のたびに携帯電話にかじりつく人や机に突っ伏してしまう人を見ると、焦りがつのります。途中で何回か理解度や感想をたずねても、返ってくるのはあたりさわりのない返事ばかりです。講義が終わり、会場を後にするときも、目を合わせずに去っていく人が少なくありません。

不安な気持ちでアンケートを見てみると、しかし、空前の高評価(当社比)だったのです。携帯電話にかじりついていた人は仕事が忙しくて講義に集中できなかったのを残念だと語り、休憩時間中に寝ていた人からは事情の説明と謝罪の言葉がありました。目を合わせずに去った人の一人は、これまで受けたなかで最高の研修だとまで書いてくれていました。

振り返ると、いかに自分が肯定的な関心に飢えていたかを痛感しました。そのくせ、おそらく場に満ちていたであろう肯定的な関心のサインを見逃しつづけ、少数の無関心のサインを素早く、しかも誤解して、受け取っていたのです。

すこし言い訳をするなら、一般に人の注意は、肯定的な関心よりも否定的な関心のサインに敏感なものだと思います。十の頭が頷いてくれても、一つの口があくびをすれば、注意はそちらに奪われてしまいます。

さらに自分の感情能力の低さを棚に上げて言うのは気が引けますが、あの場では参加者の誰もが天使になれました。つまり、感じていた肯定的な関心を、ただ講師に分かるように示すだけでよかったのです。そのサインは講師をさらに勇気づけ、より場の学びに没頭させたのではないかと思います。それは奇跡の講義とまではいかないまでも、よりよい講義にはなったでしょう。

●天使成分が多めで、ちょうどいい

リーダー研修では、ほめた経験とほめられた経験を思い出してもらうワークをすることがあります。すると常に、ほめた経験の方が、ほめられた経験よりも多く挙がります。上司はあまりほめてくれないが、あるいはだからこそ、自分は部下をほめるよう心がけていると言います。しかし部下はどうか。同じワークをしてもらうと、やはりほめる>ほめられるなのです。上司も実は、ほめる>ほめられると思っています。

たしかに、職位が上がるほど面と向かってほめるようなシーンは減るように思います。しかし観察した限りでは、職位の違い以上に、「人はほめられることに飢えている」という人間の性質で説明がつくように感じています。おたがいに10ほめ合っても、「自分は10ほめたのに5しかほめてもらえなかった」と感じるのが、一般的な性向ではないでしょうか(それを裏付ける調査・研究がないか、探しておきたいと思います)。

であるならば、マネジャーとしては、天使になる(肯定的な関心を向ける)機会を多めに選ぶくらいがちょうどいい、ということになります。

 

Aさんは東京を離れて地元に戻るそうです。送辞には、引用句に「Aさんの次の奇跡を応援しています!」と加えました。

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