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152 やる気のコンチクショー理論

【やる気のコンチクショー理論】

数年前のある社長との会話を、今でもときどき思い出します。うまく言い返したかったのにできなかったという、悔しい感情と結びついているからです。

社長は感情のマネジメントに興味があるとのことで、人間の感情に関わる自説を展開されておられました。問題の(?)発言は、部下のやる気をかき立てる方法についてでした。

社長は、ご自分は部下を罵倒したり会議で恥をかかせることで「コンチクショー!」というやる気をかき立てていると言うのです。

なるほど、と思いました。事前に、何人かの社員からは「社長がキレると手が付けられない」と聞かされており、(おそらくはそのせいで)離職率も高いのですが、一方では優秀な腹心が残っていて、業績自体は良いのです。

つまり、その時点では社長のやり方は機能していました。しかしこれからさらに成長をめざそうという会社にとって持続的に有効な方法とは、わたしには思えませんでした。

「ある状況においては、そして一部の社員にとっては、それが効果的にはたらくこともあるでしょう。しかし一般的には、多くの社員に対して有効な方法とはいえないのではないでしょうか。たとえば……」

そんな風に反論したかったのですが、うまく考えがまとめられず「そう……かもしれないですけどね」と返すのがせいぜいでした。

先日、速水 敏彦『感情的動機づけ理論の展開―やる気の素顔』を読んでいろいろと示唆を受けたので、これをきっかけに考えをまとめておきたく思います。

【ネガティブ感情から始まるやる気もある】

実際、社長が言うとおりのシナリオでやる気が出る場合もあります。そこで「やる気の源」について簡単な整理を試みます。やる気・動機付けに関わる理論をまとめていくのは大変なので、このコラムでは独自の整理をします。

やる気の定義からして簡単ではないのですが、「行動をともなう意志」くらいに捉えておきます。つまり、蛇を見て後ずさる・朝起きて伸びをするといった反射的・自動的な行動は含めません。「先生に叱られたくないから宿題をやる」という他律的・消極的な行動は含めます。

「意」志には、つねに「知」と「情」の両方が関わりますので、まずは大きく「知」的なやる気(認知・思考がかき立てるやる気)と、「情」的なやる気(感情がかき立てるやる気)に分けます。
前者は、目的・目標を定めることでかき立てられるようなやる気。今回挑戦したいのは「情」的なやる気、特にネガティブな感情が源になるやる気です。ネガティブな感情を「怒り」「恐怖・嫌悪・恥」「悲しみ」に大別して、それらが「行動をともなう意志」にどうつながるかを整理してみます。

「知」的(今回は省略)  
「情」的                                                
  ├ポジティブ(今回は省略)                            
  └ネガティブ                                          
      ├怒り                                            
      │  ├反発─建設的に「見返したい」                
      │  │      破壊的に「復讐したい」                
      │  └支配─建設的に「導きたい」                  
      │          破壊的に「服従させたい」              
      │                                                
      ├恐怖・嫌悪・恥                                  
      │  ├逃避(対処的)─建設的に「現状を変えたい」  
      │  │                破壊的に「逃げ出したい」    
      │  └回避(予防的)─建設的に「備えたい」        
      │                    破壊的に「遠ざかっていたい」
      │                                                
      └悲しみ                                          
          ├癒やし─「癒やされたい」                    
          └忘却  ─「忘れたい」                        

ざっと解説します。

  1. 怒りは、環境が自分の思い通りにならない場合に起きます。環境が自分より強ければ「反発」、弱ければ「支配」というかたちで、相応の行動へのやる気につながります。
    コンチクショー理論はこの「怒りー反発」ラインを期待した感情操作をねらったものですが、相手が建設的なやる気を持ってくれることを期待しています。社長の部下の一部にはそれが機能していましたが、他の部下はネット掲示板に社長や会社の悪口を書き込むなど、破壊的な方向にやる気を向けていました。

  2. 恐怖・嫌悪・恥は、いずれも環境から遠ざかりたいという感情です。いま好ましくない環境にいるならば「逃避」、このままでは好ましくない環境に陥りそうだと感じれば「回避」というかたちで、相応の行動へのやる気につながります。
    社長がコンチクショー理論で動かしていると思っている部下の中には、「恐怖-回避」ラインで動いている人もいそうです。組織にとって建設的に機能しているうちはいいですが、度を超すと破壊的な方向、たとえば転職活動へのやる気につながります。

  3. 悲しみは、重要な何かが失われた場合に起きます。その悲しみを緩和したいならば「癒やし」、忘れたいならば「忘却」というかたちで、相応の行動へのやる気につながります。たとえば、ある種の散歩や旅行は、楽しみを求めてというより傷心を癒やす・忘れるために行われます。

【スパイスとしてのコンチクショー】

感情は認知・思考よりも人間の行動を支配しやすく、感情の中ではネガティブな感情の方がポジティブな感情よりも人間の行動を支配しやすいと言われます。ですから、リーダーが部下のネガティブ感情に働きかけようと考えるのも無理はありません。

ただし怒りや恐怖のような感情は、建設的な行動だけでなく破壊的な行動へのやる気も育てるリスクがあります。無思慮なコンチクショー理論の実践は、破壊的な行動へのやる気をかき立て、結果的に当初のねらいとは反対の効果を生むリスクがあります。

では、ネガティブな感情を感じながらも建設的な方向へとやる気をかき立てるものは何か。ここから先は「意」の成分(目的への共感や相手への信頼)「知」の成分(言動の合理性)を考慮に入れなければなりません。そういった成分が十分にある状態で、スパイスのように使うならば、コンチクショー理論も効くかもしれません。たとえば相手のチャレンジ精神に訴える(小さな怒りを誘う)、失敗のリスクを想定させる(小さな恐怖を誘う)といったかたちで。

また、ポジティブな感情が高まりすぎると弛緩してしまいますので、そういった時にも「コンチクショー理論をスパイスとして使う」ことはありえるでしょう。いっそコ(ンチク)ショー理論と呼ぶべきかもしれません。

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