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009 コロンブスの一割引き

●コロンブスの一割引き

 『ひらめきはどこから来るのか』という本に、コロンブスのアメリカ大陸発見にまつわる愉快な記述があります。

 エラトステネス(紀元前二七六〜一九四)は驚くべき正確さをもって、地球の大きさを算出した。ところが、プトレマイオスはこの説をとらず、旅行経験の豊富なストラボンの見解にしたがって、地球の大きさをかなり小さく見積もってしまった。やがて――とはいっても約一四〇〇年の歳月を経て――プトレマイオスの『地理学』はラテン語に翻訳されてヨーロッパに普及したが、その地図の上ではインドは実際の位置よりもはるかにヨーロッパ寄りに描かれていた。しかもコロンブスは、そこからさらに一〇パーセント割り引いて計算したらしい。こうした二割、三割は当たり前式の能天気な見通しがなく、仮に本当の距離が知られていたとしたら、たとえコロンブスといえども未知の大洋へと船を出す勇気は持ち得なかったのではないか、とブアスティンはいう。
― 吉永 良正 『ひらめきはどこから来るのか』 草思社 2004年

 命がけの航海。頼りは1400年前の地図。それなのに『コロンブスは、そこからさらに一〇パーセント割り引いて計算した』らしい。リスクにはプレミアムを乗せるのが普通の考えですから、一割引きでなく二割増しくらいで見積もりたいところです。本当に能天気だったのか、なにか計算があったのか、考えてしまいました。

 考えてみると「わざと簡単そうに見積もる」ことはよくあります。幼稚園のころ自転車の補助輪を外すときには「すぐに出来るようになるよ!」などと言われました。子どもにとっての「すぐ」は数分ですが、数分で二輪車に乗れるようになるわけもありません。「もうすぐもうすぐ」と言われつつ、結局は数日かかって、とにかく最後にはできるようになりました。

 そしていま、自分が子どもに同じことを言っています。子どもは最初は恐いだの痛いだのカッコ悪いだのと理由をつけてチャレンジを嫌がりますが、ノッてくれば変わります。

 やると決めてもなかなか動き出せないときには、この「コロンブスの一割引き」で弾みをつけるのもいいですね。

●弾み車を押し始めるのは、早いほうがよい

 弾みをつけるといえば、経営判断を「占いに頼ることもありだと思う」とおっしゃる経営者の方がいらっしゃいました。いつもはとても論理的な方なのでびっくりしたのですが、話をよくうかがってみて腑に落ちました。こういう話だったと記憶しています。

 『2つの選択肢があって、考え抜いて考え抜いて、それでもどちらが良いか分からない場合には、「どちらでも同じだ」と思うことにしている。迷って行動を遅らせるよりは、占いでもいいから早く決めて行動に移す方が、どちらの道を行くにせよ成功の確率は高まるはずだ。なぜなら早く始めた方がそれだけ試行錯誤の機会もあるし、改善のサイクルも多く回せるのだから。』

 では何割引くらいで見積もるのがよいのか。これは事業にもよるでしょうし、ご本人の性格にもよるでしょう。ただし、「能天気な」コロンブスをして一割「しか」割り引かなかったということは意識しておくべきと思います。一割引いても難しそうに感じるのであれば、まだ挑戦の時期ではないのかもしれません。


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