● 人を雇うときにみるべき資質
人を雇うときは、3つの資質を求めるべきだ。すなわち、高潔さ、知性、活力である。高潔さに欠ける人を雇うと、他の2つの資質が組織に大損害をもたらす。
ウォーレン・バフェット
『一流の人に学ぶ自分の磨き方』からの引用です。
白状すると、この本自身はちょっとわたしには合わずに読み通せませんでした。
せめて*ListFreakに収集できるリストはないかな……と思ってパラパラとめくっていたら、上記の文章が飛び込んできました。
#ちなみに「目に飛び込んでくる」というのはけっこう使える(あてにしていい)ツールですよね。たとえばわたしの場合は「3つの」という言葉や「○○、○○、○○」というリズムのある塊は、パラパラとめくっていてもわりと感度よく見つけられるように思います。
人を雇うとなると、とかくその人の技能や知識に注意が向かいがちです。この「高潔さ、知性、活力」は視点を引き上げてくれそうでよいですね。本書には引用元が記されていなかったので、検索したところ、”Warren Buffett MBA Talk – Part 1“(YouTube)というスピーチの中で喋っていました。同じことをどこかに文章として書いているのかもしれませんが、突き止められず。
その内容は次の通りです。冒頭の引用文に続けて、高潔さがなければ知性は愚かさに、活力は怠惰に、それぞれ反転してしまうと、高潔さの重要性を強調しています。
“Somebody once said that in looking for people to hire, you look for three qualities: integrity, intelligence, and energy. And if you don’t have the first, the other two will kill you. You think about it; it’s true. If you hire somebody without [integrity], you really want them to be dumb and lazy.”
― Warren Buffett
“Quote by Warren Buffett“(goodreads)
● integrity とは何なのか
「高潔さ」と訳されている “integrity” という言葉を好んで使っていたのが、ピーター・ドラッカーです。ドラッカーの訳書を多く手がけた上田惇生はこの語を「真摯さ」と訳し、それは『もしドラ』にも引き継がれました。
integrity の語源は「完全な」を意味するラテン語の integer だそうです。現代英語では integer(整数)や integration(統合)が同じ語源を持っていますし、integrity も、たとえば system integrity はシステムの完全性と訳されます。ですから「完全な状態」という意味であれば、理解しやすい。
ところが、integrity が人間の特性を表す語として使われると、ちょうどよい日本語がないせいもあり、意味を把握するのが少し難しく感じます。「完全なる人間」と「高潔さ」「真摯さ」はイコールで結びきれないように感じてしまうのです。そこで一語で対応させるのをあきらめて、いくつかの言葉の組み合わせで考えてみたいと思います。
Wikipediaには「倫理学では、integrity は honesty と truthfulness である」とあります。『組織行動のマネジメント』にも同じ記述があり、これらは「正直さ」と「誠実さ」と訳されています(「職場における相互信頼の5要素」)。ひとつずつ見ていきましょう。
正直さ(honesty)とは、思いと言動が一致していることと言えます。これだけで十分立派です。しかしその思いが、たとえば他人に信じ込まされた虚偽の情報を丸呑みして形成されたものであれば、 integrity があるといえるでしょうか。
そこで truthfulness の出番です。「誠実」もよい訳語です。ただ「正直」と意味が重なりすぎているので、ここは直訳で「真実性」としたほうが考えやすいように思います。自分が重きをおく「思い」が真実に基づいたものであるかどうかを健全に疑い、たしかめる姿勢があってこそ、正直さも報われるというものでしょう。
#「真実」とは何かという、また深い議論がありますが、ここでは素通りします。
では、真実に基づいた正直さがあれば、その人には integrity があるか?まだ足りない要素があるように思います。たとえば「人間には個体差がある」と「人類は成長をめざすべき」は、ともに真実とします。そこから「ある種の人間は間引かれるべきだ」という思いを形成し、その思いに対して正直さを発揮するのは integrity がある人の行動でしょうか。
「いや、それはめざす『成長』が違っているのでは」と思いますよね。そう考えると、truthfulnessに「真実性」でなく「誠実」という語を当てた訳者の思いに共感できる気がします。「真実性」になくて「誠実」にある意味合いを込めたかったのだと思います。
それは何か。われわれが integrity に「高潔さ」「真摯さ」「正直で誠実」という言葉を当てるときには、その人の抱く思いの「善さ」「気高さ」のようなものを想定しているはずです。善悪を決める絶対基準はないものの、その人が社会の共通善に寄与しようといった善き意図を持って思いを形成していることを、期待しているはずです。
ここまでをまとめて、”integrity チェック”のリストにします。
- 「思い」と言動は「一致」しているか?
- その「思い」は、真実に基づいているか?
- その「思い」は、善き意図に基づいているか?
integrity のチェックリスト – *ListFreak
ばらして理解したところで、最後にもう一度、integrityの訳語を考えてみます。あえて一語をあてるなら、わたしなら「誠実さ」を選びます。誠実という言葉はhonest and truthfulness、つまり正直さと真実性を共に含むように感じるからです。2番めは「高潔さ」です。やや特定の価値観を想定させ、近寄りがたい気がしなくもないですが、「完全な人」は近寄りがたいかもしれません。「真摯さ」は「ひたむきさ」のような前向きな行動へと促す成分が入っているように感じます。だからこそドラッカーの文脈にはよく当てはまるのかもしれません。
ちなみに、よく「一貫性」が重要と言われます。もしこのチェックにYesと答え続けられるならば、そこにはおのずと「一貫性」が表れるはずです。ただし、行動の一貫性は結果であって目的ではありません。人は学習し、成長します。真実のとらえ方が変われば思いが変わり、行動が変わります。そのように変化し続けるという観点において一貫性があるのであり、行動だけの一貫性を保とうとすれば、いつしか思いとの分離を招くか、あらゆる変化を拒むか、どちらかになってしまいます。