【熟慮、しかるのち決断】
多くの人は宙ぶらりんの心地悪さから解放されたくて、即断の誘惑にさらされるが、決断に時間をかければかけるほど、結果は賢明で理にかなったものになるはずだ。
ルドルフ・ジュリアーニ『リーダーシップ』 p149
ルドルフ・ジュリアーニ氏は1994年から2001年までニューヨーク市の市長を務めた人物。「熟慮、しかるのち決断」は、彼の著書『リーダーシップ』のある章のタイトルです。
時間をかけるのはよいとして、いつ決めるのか。氏は決断のタイミングについてこう述べています。
決断において、一番慎重を要するのは、その内容ではなく、タイミングだろう。決定がなされるまでの時間的余裕がどれくらいであっても、わたしは、しなくてはならない時機が来てはじめて決断する。
(同上、p149)
ということはおそらく、氏は以下の順序で考えているということです。
- いつまでに決断しなければならないかを知る
- 決断の内容について熟慮する
決められることは先にサクサク決めておきたいのが人情ですが、そうしない。それは、決断に責任を持つことの重みを知り抜いているからでしょう。
いったん決断を下したら、それを固守しなくてはならないが、最終段階の直前までは、確定的に思える事柄まで含めて、考えを変えることをためらうべきではない。
(同上、p149)
とはいえ、なかなか腰を据えて考える時間は無いと思われる方も多いと思います。元ニューヨーク市長もそうでした。では、どのような態度で臨めばよいか。
リーダーは即断と熟慮のバランスを保たなくてはならない。決断を下すためには、じっくり考える余裕がないときの対処法も知っておく必要がある。
(同上、p168)
リーダーは、決断を下すまでに可能なかぎり時間をかけなくてはならないが、意思決定のプロセスはただちに始動させるべきだ。期限が五日後だとしたら、問題点の調査と検討に取りかかるのは今であって、四日後ではいけない。
(同上、p170)
わたしがこの本を読んだのはもう7年以上前になります。そのとき「ジュリアーニ流決断プロセス」を以下のようにまとめました。
- いつまでに決断しなければならないかを知る
- すぐに検討を始める
- 可能なかぎり時間をかけて熟慮する
- 考えを変えることをためらわない
- ぎりぎりまで決断せず、自らを中立に保つ
- 決断を下したら、それを固守する
ルドルフ・ジュリアーニの決断プロセス – *ListFreak
【決断はVの字で】
それ以来、常にこのリストに沿って決めてきたわけではないものの、「熟慮、しかるのち決断」は指針の一つとして有効に機能しています。6項目は多いので自分の中で自然に淘汰・進化して、ここ3年ほどは”V”の一文字にまで集約されました。名づけてV字型意思決定です。
V字の意味はシンプルで「考える期間の最初と最後によく考える」ということです。横軸に時間、縦軸に思考の密度あるいはエネルギーを取ったグラフがあるとします。あることについて決めなければならないとわかったときには、まず考え、期限ぎりぎりまで寝かせておいて、最後にまた考える。するとグラフは両端が盛り上がった「\_/」型になります。これをV字と呼んでいます。
たとえば、仕事の依頼を受け、ちょっと引っかかりを感じたとします。そんなときがV字を使うチャンスです。
- 回答期限を確認したうえで、気になることを書き出します。その作業がしっかりできれば「これが決められれば決められる」という論点の候補が絞れます。
- それらの「気になること」をリストにし、回答期限の前日まで決断を保留します。調べ物であっても、特に期限や優先順位は決めずにおきます。気になって仕方ないものは自然と空き時間に調べたくなるもので、これが意識下の興味を確認する方法にもなります。
- 期限間近になって、もう一度検討します。悩むポイントは変わらないことが多いものの、意識下での検討を経ていることもあり、お引き受けすべきかそうでないか、自信を持って決められることが多いと感じています。
上記は数日レベルでのV字ですが、数分レベルでも、いったん意識下に追いやることで決断の満足度が上がるという研究があります(「無意識の力を借りて決断の満足度を高める」)。
この知見を考慮して、引っかかりを感じない仕事でも即答せず、小さなV字を作るようにしています。たとえば午前中にいただいたご依頼はランチを挟んで回答するとか、その程度です。それでも早まらずによかったと思えることがしばしばあります。