要約:確信があっても、それが正しい決断である確率が意外に低いケースがある。前提条件をよく確かめよう。
99%の確信
「成功する事業は千に三つというけど、この事業ネタは間違いない。99%自信があるよ!」
「もしいい事業ネタに出合ったら、99%の確率で『これだっ!』と分かると思うんだけど、何しろ千に三つだからね……」
仮に、確実に成功する事業ネタが「千に三つ」であるとします。あなたは、その成功ネタを99%の確率で言い当てる、すご腕の事業ネタ鑑定人です。失敗ネタを成功ネタと鑑定してしまうこともありますが、その確率は1割(10%)しかありません。
ある日あなたは「これだっ!」という事業ネタに出合いました。99%間違いないという確信があります。このとき、それが実際に成功ネタである確率はどれくらいあるのでしょうか。先に進む前に、適当に予想してみてください。
目の前に具体的なネタがあって、それが99%「当たり」だと確信できるのだから、99%と考えたくなります。しかしベイズ推定という手法を使って計算してみると、わずか2.9%にすぎません(注1)。
事前確率という罠
「わずか」2.9%と書きました。もしあなたがわたしと同じように平均的な数学的センスの持ち主であれば「99%の確率で当てられるはずなのに、どうしてそれだけしか当たらないのか?」と感じられたことと思います。失敗ネタを成功ネタと鑑定してしまう確率を1割でなく1分(1%)とすれば、数字は23%にまで上昇しますが、依然として低い数字です。
これは、我々が、前提となっている出来事の確率の低さ(「当たり」は千に三つしかないという確率。事前確率という)を無視してしまう傾向があるからだと説明されています(注2)。
我々は、仕事でも生活でも、冒頭の例のように「ある条件さえ整えば、成功を確信できるのに…」と考えます。例えばこんな感じで。
「○○で△△な企業があったら今すぐでも転職したい。そうしたら絶対にいい仕事して会社を儲けさせてやれるんだけどなあ…」
「『この人と結婚すれば絶対に幸せになれる』という相手は、1万人の中からでも、会った瞬間に分かるはずだと思うんだよね。でもなかなか…」
我々が未来のことについて確信を持てるのは、往々にして厳しい前提条件が満たされたときに限ります。冒頭の事業ネタの例で言えば「市場参入の余地が大きく、競合優位が確保でき、その優位を確保できる体制が整っている……」といった場合でしょう。
我々はその前提条件の厳しさ(事前確率の低さ)を忘れがちであるがゆえに、結果的に過信に陥ってしまう傾向があるようです。
この「事前確率の罠」から学べることをまとめてみます。
- 「確信はすなわち過信である」と心得る。
- 「確信を持てたときは、前提条件を確認する」。厳しい前提条件を課したうえでの確信は、裏切られがちである。そもそも自分が何らかの前提に依存していることにすら気がつかないケースも、案外多いのではないか。
- 「慎重な人の確信こそ要注意」である。慎重な人は前提条件をたくさん置くが、そうすればするほど「確信の精度」は下がってしまう。「千に三つ」のことがらについて99%の確信があっても、残り997の1割を誤判定してしまうなら、3%しか正しくない。
(注1)(注2)
『行動ファイナンス―金融市場と投資家心理のパズル』を参考にしました。以下に計算式を示しておきます。
P(成功) = 成功ネタである確率 = 0.3% P(失敗) = 成功ネタでない確率 = 99.7% P(成功判定|成功) = 成功ネタを成功と判定する確率 = 99% P(成功判定|失敗) = 失敗ネタを成功と判定する確率 = 10% P(成功|成功判定) = 成功と判定されたネタが実際に成功ネタである確率 P(成功判定|成功) × P(成功) = ――――――――――――――――――――――――――――― P(成功判定|成功) × P(成功) + P(失敗) × P(成功判定|失敗) = 2.9%
なお、実際に新規事業を検討する際には、有限個の(しかもそれほど多くない)事業機会を吟味し、相互に比較をしながら絞り込んでいくと思います。今回は「事前確率無視のバイアス」を説明するための架空の状況設定と考えてください。
(参考)