要約:直感は、その人の人格そのもの。意識して決断していくことで直感を鍛えることができる。
直感を鍛えるとは、人格を鍛えること
消防士、軍の司令官、医療の救命チームなど、一分一秒を争う状況下において、熟練した専門家たちは「意思決定などしない。いくつかの候補を比較検討することもない」と異口同音に断言する。ところが、彼らは、素人にとって難しい状況でも、プロとして的確な判断を下している。この矛盾をどのように説明すればよいのだろうか?
ゲーリー・クライン 『決断の法則―人はどのようにして意思決定するのか?』 トッパン 1998年
『決断の法則』という本は、素早く決断しなければならない専門家達の直感的な判断をモデル化したうえで、直感力はトレーニングによって向上させることが可能であるとしています。それはそうでしょうね。そうでなければ超能力者しか消防士になれないことになってしまいます。
直感とは何か。組織における意思決定過程の研究でノーベル経済学賞を受賞したハーバート・サイモン教授によれば「直感と判断力は、習慣化された分析にすぎない」そうです。
本当にそうなのか?直感的な判断のメカニズムについては研究が十分に進んでいるとは言えません。ただ少なくとも、しっかり考え抜いて決断する習慣が直感力を高めることにつながるとは言えるでしょう。
決断は行動を伴います。よく思考して、自覚的に決めて、行動する。これを習慣づけていくということは、単に直感力を鍛えるだけではありません。この格言を読んだことがおありでしょうか。
思考が行動を作り、
行動が習慣を作る。
習慣が人格を作り、
人格が人生を作る。
直感を鍛えるために決断を習慣づけることは人格を、ひいては人生を、作ることに等しいということになります。直感で決断して、しかも自分がこうありたいと思う人格から外れないということになれば、これは「心の欲する所に従いて、その矩をこえず」です。孔子が七十歳にして達した境地です。そう考えると、むやみに直感に頼らず、ひとつひとつの決断をしっかり考えていったほうがよさそうです。
直感力を伸ばす5つのルール
話が大きくなってしまいましたので、具体的なコツをご紹介して終わります。以下は、Career Journal(米国の経済誌”The Wall Street Journal”が運営するサイト)で見つけた記事からの引用です。
- 先入観を捨てる(Watch for bias)
「直感」と「個人的な主観」とを混同してはならない。偏見や恐れ、ただの感情的な反応などから直感を選り分けるには、自らの思考を分析し続ける必要がある。
- 記録をつける(Keep a record)
浮かんだ閃きをメモしておいて、後で結果と突き合わせる。そうすればそれが「〜ればいいなあ」というような「希望的観測」だったのか「直感」だったのかを選り分けることができる。個人的な興味や望み、恐れなどが往々にして直感を曇らせていることが分かるだろう。
- 特別視しない(It’s a normal function)
ここでいう「直感」は脳の正常な機能の一つであり、超能力ではない。直感思考のためには問題に対する徹底的な準備作業が必要であり、事実と情報の収集が欠かせない。その問題の専門家であればあるほど直感が働きやすいゆえんである。
- バランスよく(A combined approach)
「直感モード」と「分析モード」を上手に組み合わせよう。典型的には直感 → 分析・論理 → 直感というように。「直感」は必ず論理的なフォローアップをしよう。直感思考は最終的には論理的に裏付けられなければならない。
- 分析したら、待つ。(Analyze and wait)
直感がいつ訪れるかを知ることは出来ない。集められるだけの情報を集めて、可能な限り論理的に分析し続けよう。その最中に閃くかもしれないし、休んでいるときに閃くかもしれない。「(資料を)枕にする」というよくある言い回しは、直感を育てるプロセスを指しているのである。
「直感」を、個人的な主観や感情に流された判断とは分けて考えているので明快ですね。論理的に分析しぬいたその先に「直感」があるという考え方も、これまで学んできた知見と呼応していると思いました。
- オールデン M. ハヤシ、『意思決定の技術』第2章『「直感」の意思決定モデル』、ダイヤモンド社 2006年
- Eugene Raudsepp, “Wise Job Hunters Trust Their Intuition”, Career Journal 2003