ゴールは出発点にある
リチャード・ワーマンの『情報選択の時代』から、「ゴールは出発点にある」という項の一部を引用します。
問題解決には二つの側面がある。「何を」実現したいかと、それを「どのように」実現したいか、である。すぐれて創造的な人たちのなかにも、何をしたいかをとばして、いきなりどのようにするかを考えて、問題にあたろうとする人がいる。しかし、やり方 (How to?) は数多くあるが、目的 (What is?) は一つしかない。「どのように」の原動力は「何を」である。「どのように」という問いを発するまえに、かならず「何を」という問いかけがなくてはならない。
(略)
私たちの多くは、何をしたいのかを十分理解する前に、あまりに早く、手段の選択に進んでしまう。どんな努力であっても、その究極の目標をはっきりさせるためには、その努力の目的は何かを問いかけ、それが自分のしたいこと、あるいはする必要があることとどう関係しているかをはっきりさせなくてはならない。
リチャード・ワーマン 『情報選択の時代』 日本実業出版社 1990年
「他にもっといい打ち手はないかな?」
これは会議における合い言葉のようになっています。そして打ち手の出ない原因を発想力の貧困さに求めたりします。しかし適切な対策を発想する最善の方法は、当てずっぽうに思いつくことではなく、常に「問題は何か」に立ち戻ることです。ワーマンはこのような事例を挙げています。
たとえば、あなたの住む地域社会(コミュニティ)が病院の建設を計画中だとしよう。表面上、新しい病院の目的は、よりよい医療サービスの提供にある。しかし、この医療サービス提供という目的は、本当のところは、ヘルスケアの改善、ひいては健康の改善である。とすれば、より本質的な目標は、地域社会の生活の質の改善といえる。この目的を達成する最善の方法は、もしかしたら、病院を建設することではないかもしれない。その地域社会が求めているのは、緊急医療サービスと、予防医学に重点を置いた多くのプログラムだけなのかもしれないのだ。
同上
我々は驚くほど簡単に目的を見失う
我々は驚くほど簡単に目的を見失うため、目的意識を常に忘れないマネジャーの存在は貴重です。
「良い」マネジャーはプロジェクトが始まると直ちに精密な実行計画を立てますが、ほんとうに「優れた」マネジャーは目的の確認に時間をかけます。
良いマネジャーはプロジェクトが厳しくなってくると予算や時間や人員といった制約条件を再検討しますが、優れたマネジャーは、まず当初の目的が変わっていないかを再検討します。時間が経てば目的もまた変化することがあり、目的が変われば手段も大きく変わり得ることを知っているからです。
では、どうすれば目的を見失わずにすむのか。手段から自由になり、目的からまっすぐに考えおろせるようになるのか。
決定的な方法はなく、それがゆえに様々な方法が考案されています。目的を紙に書き出す、日記をつける、瞑想する、メンターやコーチをつける、等々。共通点を見出すとすれば、没入している現場から一時的に「離れる」ことが必要です(もちろん、物理的に「離れる」ことだけを意味しているのではありません。現場のあれこれを一度脇に置いて考えてみるということです)。
現場から「離れて」いる間、マネジャーは(見かけ上は)まったく成果に寄与しません。現場型のマネジャーにとっては苦しい時間になるかもしれませんが、それほど長い時間が必要なわけでもありません。目的から離れずメンバーを導くことがマネジャーの役割だとしたら、現場から「離れる」ことは、マネジャーが磨くべきスキルの一つです。