●シンプルなツールを、長く使う
プロは自分の道具を選び抜き、使い込みます。マネジャーも同じで、多くのフレームワークを知っているマネジャーが必ずしもよいマネジャーとは限りません。
ある仕事でご一緒させていただいた方は、40を過ぎてから経営学の修士過程、いわゆるMBAを修められました。もちろんフルタイムで働きながら、週末を勉強に費やされた成果です。
能力・姿勢ともに尊敬すべきその方は、修士課程を振り返り、次のようなことを言われました。修士課程で学んだのは、数々の経営フレームワークではなく、フレームワークを作って問題の全体像を把握したり、考え漏れをなくしていくという思考のスキルであると。
知識の習得が有用でないという意味ではありません。もとより知識は学び続けなければならないものですが、問題への取り組み方のようなものは一度自分なりのやり方をつかんでしまえば汎用性があります。
●汎用的な、問題解決のサイクル
ほぼすべての仕事で、問題を見出し、取り組み、解決に導くことが求められます。仕事柄、そして個人的な興味から、多くの問題解決の方法論を学び、そして試す機会がありました。実のところ、現在ビジネスの世界で共通言語として用いられている問題解決の方法論にはそれほど多くのバリエーションがあるわけではありません。わたしの知る限り、その源流は20世紀初頭のプラグラマティズムにあります。たとえばアメリカの哲学者ジョン・デューイが1938年に著した”Logic: The Theory of Inquiry”などは、現代のビジネスにおける問題解決の方法論の原型といってよいのではないでしょうか(1)。
もちろん、用途に応じてさまざまなバリエーションが開発されてきました。創造的な問題解決のために問題の発見に重点を置くアプローチ(例えばブレークスルー思考)や、問題の原因に深入りせず解決を志向するアプローチ(例えばソリューションフォーカス)などがそれにあたります。
とはいえその核にあるものは、それほど変わってはいません。次に示すのは、そういった代表的なバリエーションを取り込んだ汎用的な問題解決のステップです。
【めざすべき目的の再定義】ステップ1 [将来像] ありたい姿は何か?ステップ2 [価値観] なぜ、その将来像なのか?真に重要なのは何か?ステップ3 [目標] 具体的な到達点はどこか?【解くべき課題の定義】ステップ4 [分析] 目標と現状とのギャップはどこにあるのか?ステップ5 [推察] そのギャップは何によって生じているのか?ステップ6 [課題] 目標達成のために乗り越えるべき壁は何か?【解決策の実行と学習】ステップ7 [選択肢] 課題解決のために何ができ得るか?どれを選ぶか?ステップ8 [実行] どうやるか?ステップ9 [学習] 何を学んだか?
問題は目指すべき目的の再定義によって常につくり出せるという立場から、「問題解決のサイクル」という名前を付けています。問題解決研修の副読本として使用しているものを、booknestでも頒布いたします(2)。
(1) チャールズ・サンダース・パース、ウィリアム・ジェームズ、ジョン・デューイ 『世界の名著 48 パース/ジェイムズ/デューイ』(中央公論新社、1968年)
(2) 堀内 浩二 『問題解決クイックガイド 行動を成果につなげる9つのステップ』(booknest、2010年)