投資家のマイケル・J・モーブッサンは、直訳すると『2度考えよ』と題した本の中で、自分の意思決定を改善する方法として「意思決定日誌」をつけることを提案しています。(1)
重要な意思決定をする時はいつでも、何を決めたのか、どのようにその決定に至ったのか、そしてどんな結果を期待しているかを書き留める時間をとろう。もし時間とやる気があれば、自分の決定に対してどのように感じるかについて書いてもいいだろう。
これは意思決定の瞬間というか、行動する前にメモしておくことが重要。なぜなら結果が出た後では、「後知恵のバイアス」によってわれわれの解釈は歪められてしまうからです。
何を書くべきか、具体的に考えてみましょう。提案されている項目は次の通り。
- 何を決めたのか
- どのようにその決定に至ったのか
- どんな結果を期待しているか
- (時間とやる気があれば)自分の決定に対してどのように感じるか
「どのようにその決定に至ったのか」は、決定の経緯についての問いです。自由度が高く答えやすい項目のように思えましたが、実際に試してみると長く曖昧になってしまいがちなので、これは削りました。その代わりに決定の目的を先に書き、その目的に照らしてこの決定が最善といえる根拠を書きます。
さらに、目的と手段の関係をチェックするために「目的の目的」を加えます。目的には決定の結果として直接期待できることを書き、目的の目的には、その期待が満たされることによって間接的・派生的に起きると期待していることを書きます。たとえば「本を出す」と決め、その目的は「名刺代わりに使える自己紹介ツールを持つ」だとしましょう。この目的は、きちんと出版までこぎつけられれば自動的に達成されます。しかし「名刺代わりに使える自己紹介ツールを持つ」ことには、さらなる目的があるはずです。たとえば「○○としての実績を相手に理解してもらう」など。いったんそこまで上ってから決定について考えおろすことで、目的と手段の関係が整理されていきます。
上記の提案のすこし後には『意思決定をする前に、失敗するとしたら何が原因になり得るかも記しておくとよい。』という記述もあります。これも振り返りにあたって有益なインプットになるので、加えましょう。これと重なる可能性がありますが、成否を分ける鍵についてもメモしておきたいと思います。多くの決定は何らかの前提・仮定に基づいており、その仮定が満たされることが目的を果たすうえできわめて重要になるからです。
以上を問いのリストとして整理すると、次のようになります。項目がやや多いので「書けるだけ書いておく」という運用になるでしょう。
- 【内容】 何を決定したのか?
- 【目的】 どんな結果を期待しているか?
- 【目的の目的】 その目的が果たされた結果として、何を望んでいるか?
- 【根拠】 目的・目的の目的に照らして、この決定が最善といえる根拠は何か?
- 【失敗】 どのような失敗があり得るか。その原因になり得るのは何か?
- 【鍵】 成否を分ける重要な因子は何か?
- 【感情】 この決定について、どのように感じているか?
意思決定にあたってメモしておきたい7項目 – *ListFreak
先日、実際に「本を書かないか」というオファーをいただいたので、そのオファーを受けるとした場合の日誌を書いてみました。よいサンプルになればと思っていたのですが、いざ書いてみると、公開しづらい個人的な考慮事項がたくさん出てきてしまいました。あたりさわりのない部分だけ抜粋してもリアリティに欠けるかもしれませんが、せっかくですからお目にかけます。
- 【内容】 何を決定したのか?
○○というテーマでの書籍執筆のオファーを受諾する
- 【目的】 どんな結果を期待しているか?
- 自分なりの考えがまとまること
- 本が当該テーマについての実績としてカウントされること
- 一定数の読者から支持が得られること
- 【目的の目的】 その目的が果たされた結果として、何を望んでいるか?
2および3の結果として、新しい仕事の機会が創出されること
- 【根拠】 目的・目的の目的に照らして、この決定が最善といえる根拠は何か?
すくなくとも2012年の段階では、紙の書籍というフォーマットが、マーケティング・ブランディングのツールとして有効と考えている。またこちらからの提案でなくいただいたオファーに応えるかたちなので、出版社内の稟議もスムーズに進むのではないか。
- 【失敗】 どのような失敗があり得るか。その原因になり得るのは何か?
2. 自分の意向がしっかり伝わらない → 自分の望むようなしつらえにならず、実績としてカウントしたくない本になる
3. ターゲット層の悩みや期待を掘り下げない → 支持が得られない
- 【鍵】 成否を分ける重要な因子は何か?
2. 編集者、ひいては編集者を通じた出版社との意思疎通
3. 事前ヒアリングと筋の通った仮説の構築
- 【感情】 この決定について、どのように感じているか?
いただいた機会に応えるか、今年温めてきたテーマにこだわって自分から機会を求めていくべきか、やや迷いを感じている。また読者対象が自社事業のコアよりも若いことへの不安もある。
(1) マイケル・J・モーブッサン 『まさか!?―自信がある人ほど陥る意思決定8つの罠』 (ダイヤモンド社、2010年)