● 一瞬の選択に注目する
残念ながらというべきか当然というべきか、「一瞬のうちに組織を変える」話ではありません。正確に言うならば『「一瞬」に注目し、活かすことによって組織を望ましい方向に変えられる』という話です。
日常の仕事の中で、われわれは膨大な「一瞬の選択」を積み重ねています。たとえばAさんがBさんと5分間だけ話をするとします。平均15秒で話し手が交代すると仮定すれば、Aさんは10回話すことになります。さらに、聞くときは相手の話を理解することに集中し、話すときは自分の考えを効果的に伝えることに集中する、と仮定しましょう。とすると、相手が口を閉じてから自分が口を開くまでの一瞬、長くても5秒間のうちには、何をどう話すかを選択しなければなりません。たった5分間のうちに「一瞬の選択」を10回もこなしているのです。
当然ながら、それらの選択の一つひとつにおいて、何を話すか(つまり内容)、どう話すか(つまり感情)は自由に選べます。破壊的な流れの会話を建て直すために建設的な内容を選ぶこともできれば、場に満ちた怒りの感情を緩和するために共感を示すこともできます。通常は、そういった発言の積み重ねによって合意が図られますが、たった一つの発言が場に染みこんで合意が整うこともあれば、たった一つの失言が決裂を決定づけることもあります。
内容と感情を選ぶこと自体は、特別難しいスキルではありません。実際、うまく進行していない会話を読んでもらい、1つか2つの発言について、内容やトーンを望ましいものに置き換えるグループワークをしてもらうことがあります。するとどのグループも、不適切な発言を選び、適切な内容に置き換え、適切な感情でそれを述べることができます。失敗はありません。なぜかといえば、1つの発言を組み立てるのに10分間かけて話し合ってもらうからです。
● わかるとできるは違う
難しいのは、その選択を「一瞬で」行うことです。何を話すかについては、たとえば論理的思考の研修を受ければ分かります。どう話すかについては、たとえばEQ研修を受ければ分かります。しかし、実務でそういった力が試されるのは、例の「一瞬」。だから難しい。「分かっちゃいるけど、なかなかできない」ということになります。
それだけに、この一瞬にしっかり焦点を当てて取り組むことで、大きな成果が期待できます。そもそも今回このタイトルで書こうと思ったきっかけは、感情のマネジメントに特化している講師仲間が「一瞬が会社を変える。変わらない会社はないと実感している」と口にするのを聞いたからです。わたしはいつも当コラムのことが頭にあるので、それこそ一瞬のうちに「次回のタイトルはこれでいこう!」と決めました。
(つづく)