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096 「一瞬」で組織を変える話(3)

前回は、一瞬(一拍)をつくり出すために、実際に有効性が感じられた工夫をいくつかご紹介しました。

● 「一瞬」が組織をどのように変えるのか

ここでタイトルに立ち戻り、そのように一瞬をつくり出すことのメリットを、感情面と思考面から整理してみます。

まず、一瞬をつくり出すだけで、感情的な議論が減ります。ダニエル・ゴールマンは、EQの概念を世界に広めることになった『EQ こころの知能指数』で

「衝動に耐えることほど根本的な心理的技能はないだろう」

と述べています。衝動に耐えられず、飲み込まれてしまう状態を、ゴールマンは「情動のハイジャック」という印象的な言葉で表現しました。たとえば「怒りが怒りを呼ぶ」「怒りに我を忘れる」とき、われわれは情動にハイジャックされています。

情動の多くが「ドキッ」「ムカッ」「ギクッ」といった擬音語で表されることからも分かるとおり、情動はパルスとしてやってきて、われわれに何らかの注意を促し、そして去って行きます。したがって一瞬をつくり出し、そのパルスのピークをやり過ごすことこそが、衝動に耐えるたしかな方法といえます。

次に、一瞬の間をとることで、他者の考えを深め、意見を引き出すことができます。リーダー層の方々と一緒に、他者(多くは部下)の問題解決を促す練習をするとき、この重要性を実感します。

この練習の難所は何よりも「話したい!」という衝動に耐えるところにあります。特に、相手がウーンと考え込んでしまったりするのを見ると、その衝動は激しくリーダーの胸を突きます。相手が思考を言葉にまとめるその数秒に耐えかねて「じゃあこういう風に考えてみたらどうかな……」と、口をはさんでしまう。いつ追加の問いかけをすべきかは難しい問題ですが、おしなべて言えば?啄同時というよりは、親鳥が先に殻をつついてしまい、相手の思考を孵化させ損ねてしまうケースが(かなり)多いように見受けています。

こういった小さな改善の積み重ねが「組織を変える」ものかどうか、もとより測定は難しいのですが、前々回でご紹介した「一瞬が会社を変える」と言った人によれば、ある事業部の全員が感情のマネジメントに取り組んだ結果、行動特性検査の結果に明らかな違いとなって現れたとのことでした。

このケースは一瞬をつくり出すことだけに着目していたわけではないので安直な敷衍は避けますが、日常生活は一瞬の判断の積み重ねであるがゆえに、まとまった人数で一定期間真剣に取り組むことができれば、効果があるかないかは感覚値として検証できるでしょう。

● 「一瞬」を有効に使うには

一瞬をつくり出すだけでも大きなチャレンジで、それに見合った効果が期待できると述べてきました。もしその一瞬を積極的に活かすとしたら、何ができるでしょうか。ここでは前回の「リストを思い浮かべる」という方法を掘り下げ、やはり個人的な挑戦の結果を共有したいと思います。

わたしの場合、リストは3項目以内、詳しい分野でも4項目以内でなければ実用に耐えません。たとえば感情のマネジメント力を高めたいと思うときに使っている(し、人にも勧めている)のはこのリストです。

  • 【気持ちを感じる】 自分や他者の気持ちを感じ取る。言葉以外でも気持ちを表現する
  • 【気持ちをつくる】 目的にふさわしい気持ちをつくる
  • 【気持ちを考える】 自分や他者の、気持ちの過去(なぜそういう気持ちになったか)と未来(これからどうなるか)を考える。気持ちを的確な言葉で表現する
  • 【気持ちを活かす】 上の3つの能力を常に働かせ、考えに組み入れたうえで行動を選ぶ

EQ4つの感情能力*ListFreak

 見かけ上4項目あるのですが、4項目めはメタな内容なので、最初の3つを「気持ちを感じる・作る・考える」というかたちで取り出せるように工夫しています。

 話の論理性をチェックしたいと思うときには、このリストを使っています。

  1. 解釈や主張を促す「それで?」
  2. 主張の根拠を掘り下げる「なぜ?」
  3. 根拠の確からしさを確かめる「本当?」
  4. 論理の完成度を高める「他には?」

考えに筋を通すための、4つの問いかけ*ListFreak

また4ヵ条で恐縮ですが、これも最初の3ヵ条で通常は用が足ります。

わたしはたまたま「その場」で何とかする仕事が多いので、キャリアの選択や問題解決などのテーマ毎に、10を超える3ヵ条リストをメンテナンスしています。そうなってくると今度は一瞬のうちに適切なリストを取り出すことができなくなってくるので、論理的思考の研修の仕事の時はこれとこれ、インタビューの時はこれとこれといった組み合わせを考えておき、仕事にかかる前に読んで記憶をリフレッシュさせておく必要が生じます。こう書くと面倒な作業のようですが、それに見合った効果はあります。

 こういった3ヵ条は瞬間的に取り出して使うものなので、まず何よりも自分で定義した言葉づかいであるべきでしょう。そして図形やシンボルといったイメージがあれば、ますます思い出しやすくなります。