『リスク、不確実性、そして想定外』という本を読みました。この分野で有名な本には『ブラック・スワン―不確実性とリスクの本質』『リスク―神々への反逆』(いずれも上下巻)など大著が多いのですが、この本は総説的な位置づけの新書で、楽に読み通せます。
ひとりカンパニーで10年間やってきて、独りで仕事をしていくうえで重要なのは「不安のマネジメント」だと考えているわたしにとって、「リスク」は公私ともにひきつけられる話題です。ただし、ひきつけられると言っても、四六時中リスクのことばかり考えていたいというわけではありません。著者の植村 修一はリスク管理にインセンティブが働かない理由を三つ挙げていました:
- 人間としての自然な欲求 ― リスクを考えると不安になる、リスクを考えるよりもっと前向きなことを考えたい
- リスクの非対称性 ― リスクが顕在化しなかった場合、リスク管理がなされたことやリスクの存在そのものが忘れられやすい。結果としてリスク管理の評価が低くなる
- リスク管理は後ろ向きという誤解 ― リスク管理とはリスクを取らないことなので、リターンも得られない(実際には期待するリターンに相応するリスクを認識し、対処するのがリスク管理)
リスク管理に人気がない理由 – *ListFreak
必要だけれど敬遠されがち、あるいは軽んじられがちなリスク管理のインセンティブをどう高めるか。著者は「大事なものを守る」という発想に立とうと提案しています。
なるほど。「不安をマネジメントするため」よりも「大事なものを守るため」と考えたほうが、ダイレクトだし前向きに考えられるかもしれません。
この「大事なものを守る」という言葉は、終章のタイトルにも採用されています。本のまとめにあたるこの章では、リスク・不確実性・「想定外」など『将来、すなわちまだ確定していないことに関するもの』への対処について、次のようにまとめられています。
- 将来について謙虚になる ― 想定を置かないと先に進めないときでも、「起こりにくい・考えにくい」イコール「起こらない・考える必要がない」ではないことに注意する。
- 「気づき」を大切にする ― すべてをあらかじめ想定できない以上、「あれっ」「おやっ」といち早く思う感覚を大事にし、それを生かす
- 木を見ず森を見る ― 大局観や広い視野を持って客観的に考えると、リスクが見えることもある
不確定な将来に対処する3つの心得 – *ListFreak
著者は長く日本銀行に勤務した後、現在は経済産業研究所で研究員を務めています。そういった(おそらくリスク管理の理論面に長けた)方をもってしても、「気づき」のような要素を3つの心得の1つに入れざるを得ないところに、リスク管理の難しさ、あるいは人間の直感の優秀さを見て取ることができます。
この「不確定な将来に対処する3つの心得」が気に入ったのは、わたしの好きな知情意の枠組みで理解できるからにほかなりません。すなわち、
- 【意】将来について謙虚であろうという意志をもち、
- 【知】大局観や広い視野を持って客観的に考え、さらに
- 【情】現場での「気づき」、つまり情動に耳を傾ける
と解釈すれば、枠組みの確かさが分かります。