●管理職に必要な3つのスキル(カッツ・モデル)
「学びは現場7割」で述べたように、現場での経験が学びの大部分を占めます。そして一つ一つの経験は複数の技能(スキル)を伸ばす機会になり得ます。どんな技能を学んだのかを振り返る適切な枠組みを持てば、学びをより速く深く身につける助けになるでしょう。
業界・職務・職位を問わず、しかも一生使えるような技能の枠組みを考案するのは難しい作業です。次に紹介する3か条は貴重品といっていいでしょう。
- テクニカル・スキル(作業をこなす技能)
- ヒューマン・スキル(人間関係を築く技能)
- コンセプチュアル・スキル(全体観を持ち、将来像を描く技能)
管理職に必要な3つのスキル(カッツ・モデル) – *ListFreak
1955年、ロバート・カッツは「管理者の成果は(あらかじめ備わった)資質よりも(訓練で習得できる)技能によるところが大きい」という主旨の論文を発表しました。そこで定義された技能のセットが〈管理者に必要な3つのスキル〉です。
彼は、職位に応じて求められるスキルの割合が変わっていくと洞察しています。テクニカル/ヒューマン/コンセプチュアル・スキルの比でいえば、管理者になりたてのときは4/5/1であったものが、やがて3/5/2に、経営層に近づくにつれて1/5/4へと遷移していくイメージです(数字はイメージをつかんでいただくための工夫です。定量的な議論は論文にはありません)。
●カッツ・モデルはいまや全社会人の技能モデルに
この論文では、管理者とは「他の人々の活動を束ね、目標達成の責任を負う」存在と定義されています。裏を返せば、明記されてはいないものの、管理者でなければテクニカル・スキルだけで十分というニュアンスを感じます。
実際、それが当時(のアメリカ)の空気だったようです。ロンドン・ビジネス・スクールのゲイリー・ハメルは、2007年に出版した『経営の未来』で『五〇年前にはほとんどのCEOが、「普通の」社員には、品質や効率のような複雑な業務問題に取り組む能力はないと思っていた』と述べています。ちょうどカッツが論文を発表した時代の描写であり、「品質や効率のような複雑な業務問題」とはコンセプチュアル・スキルによる解決が求められる問題です。
しかし現代(の日本)では、サービス産業の比重が増し、総じてヒューマン・スキルが求められています。仕事の内容も、機械やソフトウエアで代替しづらい、人間らしいものへとシフトしています。組織の意思決定者も、上意下達式から現場参加型へと広がっています。管理者でなくても、自ら企画を立て、スポンサーや仲間を集めてプロジェクトを起こす「プロデューサー」としてのふるまいが可能であり、それが求められてもいます。管理職であってもなくても「他の人々の活動を束ね、目標達成の責任を負う」機会があるのです。
あらゆる仕事は〈管理者に必要な3つのスキル〉を学ぶ機会であり、発揮する機会でもあります。そう考えると、この3か条は、いまや〈社会人に必要な3つのスキル〉と呼ばれてしかるべきでしょう。これまでの経験を振り返って身についたスキルを整理するだけでなく、これから身につけたいスキルを考えるときにも、適切な視野を与えてくれます。