投稿者: Koji Horiuchi

  • 020 「差」で問題を捉えてしまいたい誘惑

    ● われわれは、比較しやすいものを好む

    売上高が微減となる見込み――。こう聞いて、問題意識を感じないマネジャーはいないでしょう。われわれは、マイナスはダメ、プラスならとりあえずOKと考えるべく習慣づけられています。

    しかし、プラスマイナスというのは、何かと比較して初めて言えることです。例えば、売上高の絶対額を前年度と比較すればマイナスだが、実は社員数が減っていて、1人あたりではプラスだった。あるいは、実は市場が冷え込んでいて、シェアは前年度比プラスだった。見方を変えれば符号が反転することはよくありますが、状況が変わるわけではありません。

    行動経済学の研究者ダン・アリエリーによれば、われわれには「比べやすいものだけを一所懸命に比べて、比べにくいものは無視する傾向がある」(1) そうです。著者はそれを証明するためにユニークな実験をいろいろと考案しています。ここではそれらを翻案した架空の実験で説明してみます。

    例えば、あなたは採用担当者だとします。有名大学卒業だが覇気のないA君と、学歴は高くないがガッツのありそうなB君の、二人の大学生どちらを採用するかで悩んでいます。総合的にはどちらも同じくらい魅力的だからです。

    この二者択一が、「やや有名大学卒業だが覇気のないA’君」という候補者が加わったことによって、三者択一になりました。選択肢に何が加わろうと、A君対B君の相対的な評価は変わらないはずです。しかし、そうはなりません。われわれは断然A君の方を選んでしまうのだそうです。A君がA’君に比べて明らかに優位であるという認識が、A君対B君の相対的な評価をも動かしてしまうのです。

    ● 問題を「差」だけで捉えない

    このメカニズムは、企業が差別化を図ろうと競争していって、結果的に均質になってしまう皮肉をよく説明しているのではないでしょうか。

    「比べやすい違い」だけをピックアップして、それを互いに埋めようとしていけば、徐々にミクロな戦いになり、しまいには違いが無くなってしまうのは明らかです。そこで「他者が絶対に真似できない競争優位を持とう」という、これもよく聞く話になります。しかし、発想がすべて「差」から生じている限り、それは他社から見てもキャッチアップ可能な優位です。

    では、どうすればよいのか。経営コンサルタントの三谷 宏治氏は、正しく決めるためのコツの一つとして、『大事なコトを「差」でなく「重さ」で決める』(2) と表現しています。大事なことは他社(他人)との「差」ではなく、自社(自分)にとっての「重さ」であると考える。

    「重さ」も最終的には何かの「差」として、たとえば本来あるべき姿と現状との「差」として、表現する必要があるでしょう。しかし、測れそうな「差」を見つけて事足れりとしないことを心がけておくことで、冒頭で述べたような心理的な偏りを小さくできるのではないでしょうか。それが、問題の本質を把握・表現する力につながっていくのだと思います。

    (1) ダン・アリエリー 著 『予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』 (熊谷 淳子 訳、早川書房、2008年)
    (2) 三谷 宏治 著 『正しく決める力―「大事なコト」から考え、話し、実行する一番シンプルな方法』 (ダイヤモンド社、2009年)

  • 019 「クリエイティブ・チョイス」の四つの原則

    【堀内 浩二 著 『必ず最善の答えが見つかる クリエイティブ・チョイス』(日本実業出版社、2009年)より、一部編集のうえ転載しています)】

    ● ワークでもライフでも使える原則を

     オンとオフ、ビジネスとプライベート、ワークとライフ、公と私といったように、「仕事」と「それ以外」は分けて考えられがちです。実際、そのほうが整理しやすい面もあります。本書のテーマである「選択」について考えてみると、個人の選択は個人の裁量で行なえますが、仕事上の選択には組織の合意が欠かせません。

     しかし「どうせ組織が決めることだから」と個人が選択肢の創造をあきらめてしまうと、組織は創造の輝きを失います。前出の野中氏が指摘するように、個人こそが創造性の源であり、組織はその増幅装置です(1)。仕事で「創造的な選択」をめざすならば、その仕事に個人的な意義を見出す必要があるということです。この個人的な意義を本書では「我がこと」と呼びます(第1章で詳述)。

     仕事を「我がこと」にせず、「ひとごと」にしてしまうと、創造性から遠ざかるだけでなく想像力や倫理観の低下にもつながります。個人としてはできそうにない非人道的な選択も、「仕事は仕事だから」という理由付けがあればできてしまうのが人間です。

     そこで本書では、「仕事」と「それ以外」の違いよりも共通する部分に目を向けて、両者に等しく適用できるような原則を考えます。事例も、「A国市場に進出するかしないか?」というような仕事の選択と「転職するかしないか?」というような生活(人生)の選択をバランスよく紹介していきます。

    ● 「創造的な選択」の四つの原則

     本書では「創造的な選択」を四つの原則にまとめました。

     「ちょっと待った。よく『枠を外して考えよう』といわれるように、創造は『原則』のような枠組みの外側で起きるものではないか? この原則に従えば必ず『創造的な選択』ができるというのは、創造という言葉の定義からして矛盾ではないか?」  

     と感じる方のために、補足をしておきたいと思います。

     本書で提案するのは「正解を出すために従うべき絶対法則」ではなく「最善の解を見つける踏み台としての基本原則」です。

     いうまでもなく、われわれの選択は一人ひとり、一回一回、違うものです。しかし一般的な「選択」に関しては、キャリアの選択や仕事上の意思決定など、複数の分野でさまざまな知見が蓄積されています。それらを「『創造的な選択』を実践するためのヒントはないか?」という切り口で切り取っていけば、ある程度一般化できる要素は見つけられます。

     そういった要素を、わたしがお話をうかがってきた方々のストーリーに当てはめて、シンプルな原則にまとめたのが、「『創造的な選択』の四つの原則」です。

     「創造的な選択」とは、目的と手段を繰り返し問い直すプロセスです。継続的な活動の方法論がおしなべてそうであるように、これらの原則もらせん階段のように繰り返し活用されることを意図しています(図1―1)。

    第一の原則 【目的】「おもいきって」かつ「個人的な」目的を立てる(第1章)
    「我がこと」な目的を突き詰めれば、目の前の思い込みから自由になれる。

    第二の原則 【手段】「論理的に」かつ「直感で」選択肢を広げる(第2章)
    目的と選択肢とを行き来しながら、方法にこだわらず選択肢を見つけていこう。

    第三の原則 【試行】「偶然を求めて」かつ「勇気を出して」踏み出す(第3章)
    選択肢を考えつくだけならだれでもできる。とにかく一歩を踏み出し、試して学ぼう。

    第四の原則 【自得】「楽しみながら」かつ「終わらない」物語を創る(第4章)
    試行の結果を活かして、物語を書き直そう。

     第1章から第4章まで、四つの原則について一つずつ述べていきます。第5章では、このらせんを力強く回していくために、再び目的に焦点を当てます。

    (1) 野中郁次郎、竹内弘高著『知識創造企業』(東洋経済新報社、1996 年)

  • 018 それを意識するだけでいい

    ●変化を起こすための、目標設定よりもすぐれた方法

    目標を特定するよりも、ただ意識し続けるだけのほうが、はるかに大きな変化を起こせる。『死ぬまでに知っておきたい 人生の5つの秘密』という本で、著者は自らが実施した実験を紹介しています。

    数百人を対象にしたこの実験では、まず各自が人生において起こしたい変化(ダイエット、運動、食生活、ワークライフバランスなど)を明確にします。そのあと、2グループに分けて異なるアプローチで変化を起こすことに挑戦しました。

    第1のグループは、明確な目標を立て(週に○回○をする、など)、毎週それを見直します。第2のグループは、そういった具体的な目標は立てません。その代わり、起こしたい変化をカードに書き、携帯し、毎日何回も眺めます。自己否定せず、自分が望む変化を意識するよう指示されました。

    12週間後。どちらのグループも成長を果たしていたものの、第2のグループは第1のグループの3倍もの変化を起こしていたそうです。
    (原著も眺めてみましたが、この実験には引用元がなく、追試あるいは似たような実験を見かけたこともありません。ですので真偽の判断は保留しつつ、これは一般的な傾向だとして先に進みます)。

    ●ビジョンに焦点を当て、手段から自由になる

    具体的な目標を立てるよりも、その目標が達成された状態をカードに書いて持ち歩くというシンプルな方法のほうが、効果がはるかに高い。その理由を、著者は「あまり具体的に目標を設定しすぎると、それをちゃんと実行できなかったときに、つい自分を責めてしまうから」だと推測しています。

    目標には成果目標(達成時の状態。「体重○キロ減」など)と、行動目標(そのために起こす行動。「毎日○キロ走る」など)があります。引用元の文章から察するに、どうも第1のグループは行動目標を立てていた様子です。第2グループは成果目標を飛び越えて、ビジョン(変化を起こした結果として最終的にこうありたいというイメージ。「体重のコンプレックスから解放された自分」など)を書いて持ち歩いていたようです。

    行動目標は、具体的です。しかし手段を制約します。成果目標を達成するためにとり得る行動は、実はたくさんあるはずなのに、行動目標を立てた以上、特定の行動が要求されます。あえて行動目標を持たずに成果目標だけを持っていれば、手段の自由度は広がります。「体重が○キロ減りさえすればいい」と考えればいいわけですからね(ただし、そのつど最善の手段を考えなければならないという苦しさもあります)。

    まして第2グループのように、成果にせよ行動にせよ中間目標を持たず、ビジョンだけを描いていれば、さらに手段から自由になれます。「体重のコンプレックスから解放されさえすればいい」と考えれば、問題はもはや体重ではなく体重に対する自分の解釈になります。

    あることがらに意識を向けると、それ関連する情報が目に飛び込んでくるようになる。これは「カラーバス効果」「現役効果」などと言われますが、これと同じようなメカニズムが目的と手段のあいだにもありそうです。最終的に起こしたい変化に意識を向けると、そこに至るさまざまな手段を思いつけるようになる。そのほうが手段(行動)を決めてしまうよりも挫折しづらく、効果も高いのでしょう。

  • 017 解決志向型の質問で、困った状況を打開する

    ●原因分析が問題の原因を増幅してしまう

    私の場合でいえば、気分が落ち込む原因を分析することこそが、落ち込む原因になっていた。

    ビル・オハンロン 『考え方と生き方を変える10の法則―原因分析より解決志向が成功を呼ぶ 』

    合理的な問題解決のプロセスは、大まかにいえば「問題(結果) → 原因 → 解決策」というステップからなっています。問題の原因を探し、その原因を解消するための手段を考えます。

    しかし、問題の種類によっては、上で引用したように「原因分析が問題の原因を増幅してしまう」ような悪循環があり得ます。とくに心の問題はそうなりやすいかもしれません。著者は自分自身の経験をユーモラスにつづっています。

    本を読めば読むほど、どんどん気持ちが落ち込んだ。自分がいかにだめな人間かを思い知らされたのだ。わたしはたぶん重度の「臨床的うつ病」で、きっと生まれながらに脳機能に障害があるのだ。もしかしたら薬物治療が必要なのかもしれない。それに子供のころに性的虐待を受けた経験があるから、本によると、最低でも数年はセラピーを受けたほうがいいらしい。それには時間とお金と、それに”虐待についての抑圧された記憶や感情と向きあう”ためのエネルギーも必要になるだろう。薬物治療やつらいセラピーを何年も受けたいのかどうかは自分でもよくわからなかったが、それだけの金銭的余裕がないことだけはわかっていた。これでは気分が落ち込むのも当然だ!

    同上

    問題が生じる。
    解決のために原因を分析しはじめる。
    すると、その原因分析が原因となって問題が深く大きくなってしまう。

    こんなケースには、どう立ち向かえばよいのでしょうか。

    ●解決志向型の質問で困った状況を打開する

    著者の考えをわたしなりに解釈すれば、
    「問題 → 原因 → 解決策」の原因の部分をブラックボックス化して
    「問題 → ■■ → 解決策」のように考えてみるということになると思います。

    ■■の箱は、開くと問題に戻ってしまうので、開かない。問題が解決された状態から考え下ろしてみて、うまくいきそうな解決策を試す。著者は、下のような問いかけを勧めています。

    1. この困った状況についてわたしはなにを見聞きでき(事実の確認)、その事実からどんな結論(あらすじ、判断、批評)を導きだせるか?
    2. この問題をなんとか切り抜けなければいけないとしたら、そこから得るものはなに?
    3. 望ましい結果を得るためにすべきことは?
    4. 望ましい結果を得るためならやめてもいいと思えることは?
    5. これはほんとうにわたしが心血をそそぎたいものだろうか? もし違うとしたらどこに目を向けたらいい?
    6. この問題についていまわたしにできることはある?あるとしたら、まず最初にやるべきことは?もしできることがないなら、現状を変えられないことにどうやって折り合いをつければいい?
    7. この困った状況のなかでうれしかった瞬間や場面は?
    8. 以前にこれと同じような状況をうまく切り抜けたときはなにをした?

    困った状況を打開する、解決志向型の質問例*ListFreak

    上記のリストは個人的な問題のために作られていますので、プロジェクトの問題解決などのためには翻訳が必要です。とはいえ、マネジャーには有益な示唆を与えてくれるでしょう。

  • 016 決めたくなり方において賢明であれ

    ●本は「読みたい自分」に聞いて選ぶ

    発想豊かな随筆の名手として知られる丸谷才一氏が、読む本の選び方について曰く。

     僕もよく「どうやって本を選べばいいんですか」という質問を受けることがあります。しかし、これは、読みたい本を読むしかないんですね。

     言葉の言い換えみたいだけど、問題は「どういう本を読みたくなるか」というところにあるんじゃないでしょうか。要するに「本の読みたくなり方において賢明であれ」と言うしかない。

    丸谷才一 『思考のレッスン』 文春文庫

    「こんな本が読みたい」と思っている自分、つまり「読みたい自分」が分かっていれば、「どんな本を選ぶか」という答えは出ているはずです。「どうやって本を選ぶか」はその先にある技術論に過ぎません。

    ところが人は、「読みたい自分」を探すために本を読む。本を読んでいる間は考える(自分の中に答えを見出す)ことができないので、いくら読んでも満たされない。とすると、読む本を選ぶために必要なのは、自分はどんな本を読みたい人間なのかを自分の頭で考えることなのでしょう。丸谷氏はそのあたりの機微を、持ち前の軽妙さでこう表現していました。

     ほら、昔から、散歩しながら考えるといい、というでしょう。あれは散歩をしているときは、本を読むわけには行かないからいいんです。アルキメデスはお風呂に入っていてあの原理を発見した。たぶん彼は風呂の中では本を読んでなかったはずです(笑)。―(中略)―とにかく本を読んでいる最中にいいことを思いつく人はめったにいない。

     もう一ぺん同じことを言いますと、いままで生きて、読んで、かつ考えてきた。そのせいで一応手持ちのカードはあるんですよ。その手持ちのカードをもう一ぺん見ましょう。

    同上

    ●「決めたくなり方において賢明であれ」

    丸谷氏が語っていたのは、読むべき本の選択についてです。これを進むべき道の選択と置き換えてみると、我々の意志決定のあり方を考えるヒントになりそうです。

    たとえば、部下に意志決定の方法論をいくら教えても決断力がつかない、という場合。問題は知識が少ないことではなく、決めたいと思っていないことにあるのかもしれません。

    冒頭の引用文を、こんな風に言い換えてみます。

    僕もよく「どうやって決めればいいんですか」という質問を受けることがあります。しかし、これは、決めたいように決めるしかないんですね。

    言葉の言い換えみたいだけど、問題は「どれに決めたくなるか」というところにあるんじゃないでしょうか。要するに「決めたくなり方において賢明であれ」と言うしかない。

    「決めたくなり方」というのは、決めるということに対する態度あるいはスタイルです。たとえば、決断力の高さを評価されている元ニューヨーク市長のルドルフ・ジュリアーニ氏は、即断即決タイプではありません。すぐに考え始めるが、ぎりぎりまでは決めないと言っています。

    多くの人は宙ぶらりんの心地悪さから解放されたくて、即断の誘惑にさらされるが、決断に時間をかければかけるほど、結果は賢明で理にかなったものになるはずだ。

    ルドルフ・ジュリアーニ 『リーダーシップ』

    氏のスタイルだけが正解だということではありません。自分の決断スタイル(決めたくなり方)を意識する。決断後、そのプロセスを振り返る。飛躍や偏りがあれば反省し、次回の決断に活かす。そういった実践の繰り返しの中から生まれる自分なりの決断スタイルを持つことが、限られた時間・予算・資源の制約のなかで決断をしていかなければならないマネジャーにとって重要なのだと思います。

    最後に、決断スタイルに影響を与える変数をいくつか考えてみました。こういった要素の組み合わせが、決断スタイルをかたちづくっていくのではないでしょうか。

    • 独りで決めるか、合意を重んじるか?
    • 少しずつ決めるか、一気に決めるか?
    • 退路を残すか、退路を断つか?
    • すぐに決めるか、期限いっぱいまで保留するか?
    • 結果を重視するか、プロセスを重視するか?
    • 直感を重んじるか、排除するか?
    • 定量的な根拠を重視するか、定性的な根拠を積極的に採り入れるか?
    • 決断にあたって、何をどの順番で重視するか?(経済性、効果の持続性、ビジョンとの一致性、倫理性など)
  • ゲスト参加「講師サミット2009」

    ゲスト参加「講師サミット2009」

    講師のためのイベント「講師サミット2009」にゲスト講師として参加いたしました。

    (2009年2月)

  • 015 宇宙論的症状(遭遇したことのない状況)

    ●かつて経験したこともなく、何をすればよいか見当もつかないような状況

    経営学の本で「宇宙論的症状」(cosmology episode)という珍しい言葉を拾いました。ミシガン大学ビジネススクールのカール E. ワイク教授へのインタビュー記事の中にあった言葉です。

    人々が突然、『この宇宙はもはや合理的で秩序あるシステムではない』と感じるほどの状況に直面して、パニックに陥っている状態。教授はこういった状態を「宇宙論的症状」と読んでいます。

     ここ何年か、M&Aをはじめ、事業の売却や再統合、仕事の変更や上司の交代などが相次いだために、多くのビジネスマンが重度の字宙論的症状に見舞われています。経営幹部でさえ、自分がだれのために、また何のために働いているのか、判然としていません。

     そこにグローバル化と急速な環境の変化が加わった状況では、もはやだれも自分が何者なのか確信を持てなくなっていますが、これは無理からぬことです。自分が組織図のどこにいるのかさえ、はっきりしない人も少なくありません。

     したがって、多くのマネジャーは会社人生のなかで、少なくとも一度は宇宙論的症状に襲われ、世界が逆さまになったような経験をすると言っても過言ではないでしょう。

    カール E. ワイク “「不測の事態」の心理学”(『組織行動論の実学―心理学で経営課題を解明する』、 DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部、ダイヤモンド社、2007年)

    このインタビューは2003年のものですが、日本では2009年にこそあてはまる描写ではないでしょうか。先日講師を務めたビジネススクールのクラスでは、20人のうち2人は、言い換えれば参加者の1割は、所属する会社がM&Aを発表していました。

    かつて経験したこともなく、何をすればよいか見当もつかないような状況に放り出されたら、どうすればよいのか。教授は『行動を起こす前にすべてを考え抜こうとするタイプ』は泥沼にはまってしまう、と言います。必要なのは、行動し、体験し、『実体験を理解可能な世界観に転換する』こと。教授はこれをセンスメーキングと呼んでいます。

    ●いま何ができるか

    ワイク教授の言葉を信じるならば、われわれは「少なくとも一度は宇宙論的症状に襲われ、世界が逆さまになったような経験をする」ことになります。仮に、皆さんがまだ「宇宙論的症状」までは行っていないとして、いま何ができるでしょうか。記事を参考にしつつ思いつくまま書いてみます。

    実際に宇宙論的症状に襲われたら、もはや行動してみるしかない。ということは、その前に考えておけることは考えておくのが妥当なように思います。以下のようなことはどうでしょうか。

    【想定】経営フレームワークを活用した「起こり得る災害ゲーム」

    我々が日頃頼りにしているビジネスの枠組みを活用すれば、起こり得る災害の種類を網羅的に挙げることができます。たとえば経営資源といえばよく「ヒト・モノ・カネ(・情報)」と言われます。もしヒトが突然半分になったら?あるいは3C「市場−競合−自社」を使って、もし市場が突然半分になったら?を考えてみるということです。そういった災害と「いつ・どこで・誰に・どうやって」といった5W1Hの枠組みを組み合わせてみると、シナリオを具体化していけるのではないでしょうか。

    【学習】他業界の事例や先賢の知恵に学ぶ

    自分(自社)にとっては「宇宙論的症状」であっても、おそらく人類史上初というわけではないでしょう。自分の業界では珍しいことが、ほかの業界ではよくあることだったというケースは少なくありません。またリーダーは歴史物語や哲学者の言葉から意志決定のヒントを得ます。他の業界や昔のできごとを知っておくことは、どちらかといえば教養に属するようなことがらかもしれませんが、不測の事態への備えとしては大きな意味があります。

    【観察】現場を観察する

    ワイク教授は、最近の研究で原子力発電所や消防隊などシビアな業務をこなしている組織(高信頼性組織、あるいはHRO)に注目しています。こういった組織のマネジャーは状況を単純化せず、つねに現場に注意を向けているそうです。

    (引用文献)

    カール E. ワイク 『「不測の事態」の心理学』より。同論文はDIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部 『組織行動論の実学―心理学で経営課題を解明する』(ダイヤモンド社 2007年)所収。

  • 014 無記(善くも悪くもない)

    ●善悪の基準

    A部長のところにいたXさん、あまりにも反抗的だというのでB部長が面倒をみることになりました。ところが、B部長の目にはXさんが独立心旺盛で貴重な人財に映ります。XさんはB部で大いに活躍し、B部を支える中核人財に成長しました。

    ……といった話を、よく聞きます。Xさんが変わったわけではありませんでした。Xさんの「自分で考えて、考えたことを率直に発言する」という性質が、A部長からは「反抗的」、B部長からは「独立心旺盛」と評価されたのです。

    我々は、ものを見るときに自動的に善悪のラベルを貼りがちです。しかも無意識に。利益に資すると思えるものは善、そうでないものは悪。高効率そうに見えるものは善、そうでないものは悪。部下のYさんが話がうまいのは善、時間にルーズなのは悪。こういう判断基準が固まってくればくるほど、仕事が上手にさばけるようになってきます。マネジャーの場合は、意志決定のスピードが上がってきます。

    しかしこのような考え方に慣れてしまうと、創造的に考えたい場面で力を発揮できません。たとえばYさんが「時間にルーズ」というのは、矯正するしかない「悪」なのでしょうか。もし余人に代え難い強みに転じるとすれば、それはどのように見出せばよいのでしょうか。

    ●三性の理(さんしょうのことわり)

    森 政弘氏は『矛盾を活かす超発想』という本で、善と悪に「無記」を加えた「三性の理(さんしょうのことわり)」という考え方を紹介しています。「無記」とは、善でも悪でもないということ。冒頭のXさんの例で考えれば、「自分で考えて、考えたことを率直に発言する」という評価は無記です。それ自体は善でも悪でもない。受け取る側が、それを決めているということです。

    森氏は、いくつか楽しい例を挙げています。空き巣は悪です。しかし「家屋のセキュリティに詳しい」というスキル自体は無記です。そこで、空き巣が心を改めれば、そのスキルは「防犯アドバイザー」のような善たる仕事に生かせます(実際に、コンピュータ犯罪などで実例があったと記憶しています)。

    Yさんが「時間にルーズ」なのは、ふつうは悪です。これを敢えて無記にとらえることはできるでしょうか?たとえば以下のような感じです。もちろんどのように生かせるかはケースバイケースでしょうから、あくまでも一例としてお読みください。

    「時間を区切って行動する意識が弱い」(無記)
    →「好きなテーマであれば昼夜を問わず考え続けられる人財では?」(善)
    「目の前のことに集中していて、約束の時間に遅れる」(無記)
    →「時間を忘れるほどの集中力を生かせる仕事やテーマはないか?」(善)

    悪と思っていることを書いてみて、それを「無記化」してみる。つまり善い悪いの判断を交えずに書き直してみる。そこに何かを加えることで、「善化」できないかどうかを考えてみる。「善と悪との間に無記がある」という発想は、われわれの意志決定の幅を広げてくれそうですね。

  • 「リストのチカラ」で2年間の学びをまとめる

    「リストのチカラ」で2年間の学びをまとめる

    2009年1月に、国際メンターシップグラジュエートスクールというスクールで5時間の講義の講師を務めました。学長の吉川宗男教授から、受講生が2年間のコースで学んだことをまとめる支援をして欲しいとのご要望を賜って実施したものです。 

    「リストのチカラ」研修2009-1

    担当したのは、2年間のコースの実質的な最終回です。そのあと受講生の皆さんは予行演習を経て最終プレゼンテーションに臨まれます。途中からコースに参加されたかたもいらっしゃるとのことでしたし、皆さん社会人ですのでそれぞれ違った目的を持って学ばれているはず。それらを踏まえて、各自の学びを共有しながら最終的には自分の学びをリストとして凝縮できることを目標に、設計しました。

    1.『リストのチカラ』+リスト作りの手順1

    「リストのチカラ」研修2009-2

    皆さん、事前に『リストのチカラ』には目を通してくださっています。そこでリストの効用や作り方についての説明は最小限にとどめ、さっそくグループごとに自由にテーマを選んでリストを作ってみることにしました。16人が4つのグループに分かれて、グループごとにテーマを決めてリストを作成していきます。わたしは、「集める → 束ねる → 固める」というステップと、手を動かしながらそれらのステップを実践するための小道具を提供しただけです。それだけで、皆さんは素晴らしいリストを作成されました。

    2.リスト作りの手順 2+ 枠組みの作り方

    「リストのチカラ」研修2009-3

    次のグループワークは、よく知っているテーマで、しかしノーヒントでリストを作ってみます。テーマは【あなたが定義する「優れたメンター」とは、どのような人物ですか?】としました。 この演習はリストの作り方をおさらいすることと、もっとも難しい「枠組みづくり」を体感し、ヒントを共有することが目的です。そこで、リスト項目が簡単に出せそうなテーマを選んだつもりでした。しかし、このリスト作りはかなり難航しました。わたしは「皆さんメンタリングにお詳しいのでネタは簡単に集まるだろう」と簡単に考えていたのですが、ここは設計が甘かった。よくご存じのテーマであるがゆえに、全員の「優れたメンター」像を集めるだけでも膨大な量になります。わたしの想定していた時間には収まらず、納得のいく形まで持って行けなかったチームもありました。

    3.学びを総括する

    「リストのチカラ」研修2009-4

    さあいよいよ本番です。全員が自分だけのリストを作ることをゴールとしつつも、2年間で学んだことをお互いに共有していく時間にもしたい。そこで「集める」フェーズでは、ポスターセッション方式と名付けている方法で、一人ひとりが自分の学びを発表したり、他の方々の学びを聞いたりする時間を設けました。わたしも皆さんの話を聞きながら会場を回りました。話を聴いていると、素晴らしいゲスト講師が、それぞれ素晴らしい話をされていることがよく分かります。わたしも受講生として参加したかった。 そのあと、「束ねる」「固める」のフェーズは個人ワークの時間が長くなります。予定では1日のうちにリストを作りきってミニ発表会……という進行にしたかったのですが、随所で盛り上がりすぎてそこまではたどりつけませんでした。

    今回は、2年間もの時をともに過ごされてきた仲間が参加者でした。しかも、内なる蓄積が豊富な方々ばかり。おかげさまで、とても楽しい時間となりました。ありがとうございました > 参加者の皆様、吉川先生

    (2009年1月)

  • 研修「ビジネスプラン立案実践」

    研修「ビジネスプラン立案実践」

    研修 ビジネスプラン立案実践

    2005年より、大手企業にて社内研修「ビジネスプラン立案実践」を実施しています。これは株式会社コミットメンツからの受託業務です。

    (2005〜9年)